国際社会を目指す日本の若者たちへ

宣伝をしているわけでもないのに、私のブログを読んでコメントを下さる方が少しずつ出てきた。一人一人にお返事するのは時間的に無理でもあるし、恥ずかしながらブログのコメントページから直接お返事するやり方もよくわからないので、いただいたコメントなどを頭において何回かに分けて記事を書こうと思う。まずは、読んでくださってありがとう。

コメントを下さるのは、若い女性が多くしかもそのほとんどは将来国際社会で仕事を見つけ活躍したいと思って勉強している人たちだ。これから人生とキャリアを設計する上でいろいろと考え悩むこともあるだろう日本の若者たちの背中を少しでも押すことができれば、私としてもうれしい。

1. 努力を積み重ねて自信を身につける。「日本人」としてではなく、あなた「個人」で勝負する

国際社会で成功する秘訣は、まず確固とした「個」を確立すること。一般的に集団に属してその組織力によって勝負していく日本の仕事のやり方では、うまくいかないことが多い。なんといっても努力を積み重ねて、自分に自信を持つことが必要なのだ。自分の力をトータルで把握して、弱点は努力で克服していく。よく「日本人は自己主張をしないし、英語も下手なので国際社会や国際機関では不利」ということを言う人がいる。これはうそである。日本人が一般的にもっている特質、たとえば物事を単純に白黒で見るのではなく、複雑性や相対性を受け入れられるバランス感覚、押しどころと引きどころをわきまえた人間関係上の知恵、勤勉さ、高い道徳心や教育レベル、丁寧な仕事をする能力、などは国際社会や国際機関ではプラス以外の何物でもない。国際社会でうまく行かない日本人がいれば、その人個人の弱点が克服できていないからだ。決して劣等感を持ってはいけない。そして自信をもって行動することと、傲慢になることを間違えないように。

2. 健康な肉体と強靭な精神がなんといっても一番大事

ともかく心身ともに健康を保つことが、「組織」の庇護なしでキャリアを構築していくためには必要。特に、精神的な強さはもしかすると国際社会でやっていくために一番重要なことかもしれない。孤独感・不安感、仕事上の競争やストレスに押しつぶされることなくやっていくためには、家族・パートナーや友人といった心のよりどころをどこかに持ち、失敗をくよくよ考えない思い切りの良さを身につけ、趣味でも何でも何か自分の精神を安定させるコツのようなものを持つのが肝要だ。

3. 動機と覚悟

なぜ自分は日本の外に出て働きたいのか?これをしっかり考えてほしい。自分の目指すところ、目的とすることを本当に追求していく覚悟がありますか?単なる憧れなどでは難しいけれど、本当に覚悟さえあればやってみよう。やらないで後悔するより、やってみて後悔したほうがよい。

4. 人生はトータルで考える

自分のキャリアを設計していくに当たっては、表層的に仕事のことを考えるのではなく、長い視点を持ち、かつ、多角的に人生のさまざまな側面を幅広く考えたほうが良い。中年を過ぎて初めて理解できたことだけれども、プライベートでも幸せで安定している人のほうが、結局仕事でも成功しているのが普通だし、いくら仕事ではものすごく有能で効率的であっても、人間的に成熟していなかったり、仕事の知識以外の教養がない人間は、結局仕事でも人望を勝ち得てトップに上がっていく人とはならないことが多い。仮に高い地位につけたとしても、国際社会では尊敬されない「リーダー」の行く末は結構悲惨なものだ。仕事で成功したいのであればなおのこと、人生はトータルで考え、自らの幸せを希求するとともに、深く自分の内面を磨き、他人を思いやり、教養を身につけて立派な人間になるべく努力すべきなのだ。

5. 具体的に身につけるべきこと

言語能力を含めたコミュニケーション能力を磨くこと。もう15年以上前に「国際協力を仕事として」という本の1章を書いてInt Coop article 1995.pdf 直、これが結構評判になったのだが、そのときに「英語はテクニカルな次元のことでさして重要ではない」というようなことを書いた。これは間違いだったと思う。いくら語るべき・伝えるべき内容をしっかり持っていても、ツールたる言語・コミュニケーション能力を持っていなければ能力は発揮できない。読む、書く、話すすべての能力をほぼ完璧に身につけよう。若いうちは、書く能力がとても重要。なぜなら、あなたの書いたものがまずは上の人の目に留まりそこからあなたの評価が上がっていくだろうから。文法的な正しさだけでなく、微妙なニュアンスを出せる文章を書けること、そして発言できるように。たくさん原書の本を読もう。できればきれいな発音を身につけよう。21歳になって始めて海外にでた私は、当時LとRの発音をきちんとできるように何時間も鏡の前で練習したものだ。「英語なんて、ちょっと下手でもいいじゃない」ということは、ありえない世界なのです。

深い専門的知識と広い一般的知識を両方とも、バランスよく持つこと。そうすることによって、そこらの競争相手とはちょっと違う視点を提供できるだろう。国際機関で長く仕事をしていると良くわかるが、「一本の木」の持つ特定の問題点とその木の存在する「森」の大きな問題の両方を考えられる人間は意外に少ない。「何本かの木」のいくつか異なる問題点を相互にリンクさせて考え分析できる人もあまりいない。日本人は高い教育を受けてきており、普通は事務能力などにも長けているので、あとは問題の所在点を明らかにできて、その解決法を考えられる能力を身につけていければしめたものだ。

人とのネットワークを構築する力とスキルを身につけよう。日本の就職活動における母校の卒業生を頼って話を聞きに行くような親切なシステムが、国際社会では存在しない。要するに、いかにコネをつくりネットワークを構築していけるかがひとつ大きな鍵となる。日本人の中にはこのネットワーク作りがあまり得意でない人が多いような気がする。コネやネットワークを作るときに、国際社会では「日本人」を頼っていくのは私はお勧めしない。単なる国籍の共通点よりも、自分の興味のあるテーマにもっとも詳しい専門家、自分にもっとも有益なアドヴァイスをしてくれそうな人を、国籍にかかわらずあたっていき、自分のコネとしていくことが必要なのだ。時々国連を目指す日本人の若い方が訪ねてくることがあるが、興味の分野を聞いてそれにあったもっとも適した人を紹介することにしている。国連に日本人職員はそんなにいないので、当然、いろいろな国籍の同僚を紹介することになる。結構親切に、紹介のメールを書いてあげたり、電話をしたり。そしてそこでコネが作れない日本人は、国際社会でキャリアを積んでいくには不適であると判断する。いろいろな人に出会いネットワークを広げていくこと自体が、国際社会でのキャリア構築ともいえるからだ。

そして、現場感覚を身につけよう。現場に出て実際に経験するのと、頭で理解するのは何かが根本的に違う。説明するのが難しいけれども、一度現場を経験すると、レポートを読んでいても何かが感覚的にすぅっと理解できたりすることがある。若いときに現場を体験すると、とても役に立つ。ただし、現場だけではだめで、組織のいろいろなところでデスクやら政策やら管理やらを順に経験していくと、その組織がどのように動くのか、またどのように動かせばよいのかがだんだんわかってくるわけだ。

6. そして・・・特に日本の若い女性に言いたいこと

「キャリア」か「家庭か」、などという二者択一の人生は、やめましょう。そういう選択を迫られる必要は、少なくとも日本の外ではないのです。貪欲に、キャリアも女性としての幸せも、両方あって当然よ!という時代をあなたたちが作らなければなりません。いろいろな人生があって当然で、仕事をすることを望まず、それが経済的に可能であれば当然尊重されるべき選択ですが、両方欲しい人がそれを手にできるようになるものも、また尊重されるべき選択のはず。そしてそれは決して困難なことではないのですから。