パリ番外編

オーレニウス国連内部監査局事務次長(スウェーデン人)が6月30日に退任するに当たり、離任報告書(End of Assignment Report)を書いた。これがワシントンポスト紙にリークされ、国連本部に激震をもたらしている。オーレニウス事務次長は、バン事務総長の指導力の欠如によって国連は崩壊へむけて沈下し、意味のない組織に低下しつつあると通常では考えられない表現で糾弾している。報告書によれば、事務総長は内部監査の独立性を尊重せず、国連の内部浄化と改革を推進するとの当初の彼自身の宣言を無視しているという。http://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2010/07/19/AR2010071904734.html

実は7月20日火曜日のNY時間で朝一番に、私の携帯に電話が入った。PKO局の事務次長補の補佐官からで、オーレニウス事務次長の離任報告書に関する緊急会議を副事務総長が開催するのででてくれないか、という電話だった。この補佐官は私が休暇でパリにいることを知らなかったので、その旨伝え、また、PKOミッションのリーダーシップの離任報告書は私の管轄であるが、国連事務局NY本部の他の局の幹部職員の離任報告書は私の管轄ではないがどういういきさつであるのかを聞いてみたが、補佐官は詳しい事情は知らないようだった。しばらくして、メールが入り始めた。オーレニウス事務次長が事務総長を痛烈に批判する50ページに及ぶ離任報告書をかいたこと。これがワシントンポストにリークされ、今朝の紙面に大きく報道されたこと。そしてほぼ時を同じくして、著名なフリーのジャーナリスト・ライターであるJim TraubがForeign Policy Magazineのオンライン版にオーレニウス事務次長の離任報告書の内容やバン事務総長の指導力の欠如に関するこれまた批判的な記事”Good Night Ban Ki-Moon”を発表したことを知らされた。曰く、オバマ政権はアメリカの国益のためにもきちんと機能しうる国連事務局の指導体制が必要であること、よってオバマ政権は2011年のバン事務総長の一期目の任期終了後の新しい国連事務総長を考えるべく、静かな外交を開始するべきだとのこと。これまでもバン事務総長を批判した記事は良く出ていたが、これほどはっきりと彼の退任を求めた記事はこれまで出たことはない、会議で何回かあったことのあるTraub氏は物静かな人なだけにそのペンの鋭さに驚いた。http://www.foreignpolicy.com/articles/2010/07/22/give_ban_the_boot

パリのカフェで送られてきたこれらの記事を、ブラックベリーの小さい画面にアップしてざっと目を通す。オーレニウス氏は国連でも内部監査担当の事務次長であり、彼女の離任報告書の持つインパクトは大きいだろう。そしてPKO要員による現地の住民への虐待などに関して触れられているところがあったので、万が一プレスにコメントを求められたりしたの時の対応を協議する必要があり、私の直属の部下と長く電話で話し合った。なにしろ、PKO要員の不正に関する内部評価をつい最近私の部局でおこなったばかりで、オーレニウス氏の内部監査局とも様々なやり取りがあったのだ。

それにしても、どうなるのであろうか。事務総長室を始め、本部は大変だという。バン事務総長の2期目の再選は間違いなしとのもっぱらのうわさであったが、内部のしかも監査担当の事務次長からのあからさまな批判やメディアの攻撃をうけてそれが可能なのだろうか。今国連は多くの課題を抱えている。この件で、国連本部が不安定化しないことを祈るばかりだ。