「何があっても大丈夫な国が世界にひとつあるとしたら、それは日本だ」

これは私の言葉ではない。3月11日から今まで、たくさんの国の人たちが私に言ってくれた言葉だ。

 2月から本当に忙しかった。出張が重なったり、大きな会議(国連総会PKO特別委員会)の責任者であったため時には深夜まで仕事があったり。大震災の日は、この大きな会議の最中であった。海外にいる私は、粛々と責務を果たすことが日本への最大の貢献でもあると考えたので、予定通り業務をこなしたが、部下が配慮してくれて普段使うことのなかったオフィスのTVをCNNにつないでくれた。そして、大震災当日の会議場でも、また1週間くらいはメールでも、いろいろな国の外交官たちや世界中に散らばったいろいろな国籍の同僚たちに心のこもったお見舞いのメッセージを頂いた。時間をかけてお礼のお返事を書いた。

 未曾有の大震災に、バン事務総長は国連も日本のために役に立ちたいと連日国連の最高幹部会議でも日本への支援のあり方を議題にした。「日本はこれまで世界に多大の貢献をしてきた。今度は国連が日本のために貢献すべきだ」と。私は個人的には、日本は災害救助復興に関しては世界トップの力を有しており、国連がでていく幕は多分ないと思ってはいたけれど、震災直後の月曜日にもし国連が何か活動をするということになるのであれば、現場にすぐ派遣される用意があることを、直属の上司であるPKO担当事務次長の許可を得たうえで伝えた。

 震災から1週間後にインドネシアに、さらに昨日までインドに出張。私はもちろん国連の人間として行くのだが、行く先々で「日本」のことが話題になる。インドネシアのマーティ外相はインドネシアと日本がともに地震国であることに触れて、「日本は強い国です。被災者の方々についてのニュースで、それが本当に伝わってきます。」あるインドネシアの中将は、「妻が今朝のニュースで『フクシマ50』(原発の復旧作業を行う現場作業員たちの努力はニュースストーリーとして世界中で報道された)の話を聞いて、涙を流していました」。旅先で見るBBCやCNNでも、「日本のこれまでの世界への貢献に今こそ世界が応えよう」といった趣旨の募金の呼びかけを行っている。

 私は世界の「連帯力」といったものを心から信じている人間だ。世の中には大震災もあれば戦争もあり、つらいことがたくさんあるけれど、人類社会は連帯することによってこれらを克服し、歴史を見れば世界は明らかに少しずつより良いところになっているではないか。今の日本はこの世界からの連帯に感謝し、その力も借りて一日も早く復興を成し遂げ、その暁にはより一層の連帯を世界に示し貢献できる国になればよい。そしてその兆しも見え始めている。妹からのメールによれば、以前は優先席で眠りこけていた若者たちが元気に線路脇を歩き、ボランティア活動も始まっている。きっと今回の大震災は日本人を一層強く、行動的にしてくれるだろう。日本の戦後復興が日本人に自信をつけたように、今回の震災後復興も日本人に新たな自信を与えてくれるのだと思う。そしてそのプロセスの中で、「想定外」の事態にも対応できる能力を持った新しいリーダーも生まれてくるだろう。

 「何があっても大丈夫な国が世界にひとつあるとしたら、それは日本ですよ。」多くの日本の友人たちの、この言葉を信じて、私は私の場所で責務を果たしていこう。