ある日曜日

娘たちは朝早くから学校のスキー教室、夫も昼過ぎからジムに行ったので久々に一人で静かに午後を過ごす。お茶を沸かしてTVの前に座る。

シリアの決議案はロシアと中国の拒否権によって葬り去られ、廃案となった。西欧諸国やアラブ諸国からは非難の声があがる。クリントン長官「アメリカは非常にむかついている(disgusted)。(拒否権行使は)茶番だ。」 イギリスの国連大使「唖然としている(appalled)」、ヘーグ外相「(中ロの拒否権行使は)重大な判断ミスだ」。カタールの外相「(拒否権行使は)殺しのライセンスを与えたようなものだ」、アラブの春の発端となったチュニジアはシリア大使を追放し、在シリアのチュニジア大使を召還するという。安保理が一致して対応できなかったのは非常に無念。今後も水面下での折衝が続くのだと思うが、これを機会に反アサド軍(「自由シリア軍」)への武器供与によって国内の軍事バランスを均衡させる方向に進むのではないかと危惧する。シリア情勢は将来にわたってレバノン、ヨルダン、イラン、イスラエルなどの周辺国に影響を及ぼすので大量の武器がシリアに流入するということになれば大きな不安材料だ。この安保理の機能不全によってアサド政権はほんの少しの間生きながらえるということになるのだろうか。週明けにもラブロフ・ロシア外相がダマスカス入りするという。

さて、TVでダボス会議出席中に行われたシンガポールのリー・シェンロン首相(彼は第3代首相で初代リー・クワンユー首相の息子)のインタビューを見る。シンガポール首相は世界の首脳の中でもトップレベルの高給取りだ。最近約3割の給与カットがあったのだが、それでも1億3千万円ほどでアメリカ大統領の約4倍の給与。これが高いか低いかは別として、「有能な人材が政治や行政の分野に集まるように相応の給与レベルを確保するのは、シンガポールのような国にとっては重要」という彼の主張にはうなずけるものがある。確かにシンガポールの外交官は皆優秀な人材がそろっていると思う。日本も以前(明治維新の頃)は、そうして家柄にかかわらず優秀な若者を日本全国から集めた。リーマンショック後の現在はまた違うのかもしれないが、以前一橋大学で教えていて気になったのは、優秀な学生の多くが「外資企業でうんとお金儲けしてから、国とか国際社会への貢献を考えても遅くないでしょう」などと言っていたことだった。短絡的な「官たたき」は国を滅ぼすのではないか。

もうひとつ印象深かったのは、リー首相の「グローバリゼーションが進む世界では、シンガポール人には世界中に機会が広がっている」と述べたこと。いわく、教育に大きな投資をしているシンガポールでは、その恩恵を受けて世界レベルで機会をつかむ若者が増えているとのこと。「ある意味、頭脳流出という問題もあるが、いずれ世界で経験をつんだシンガポール人たちが国に戻り、貢献してくれるだろう、それで良いのだ、いや、それでこそ良いのだ。」初代リー・クワンユー首相と同じ権威主義的な傾向で批判されることもあるシェンロン首相だが、人気取りのためにTVで官たたきに精を出し、国外には世界があることすら忘れてしまっているどこかの国の政治家たちより、数倍も説得力があると思った。