NATO本部より

3日前からブルッセルに出張できている。昨日・今日の2日間、NATO本部とスタッフ・トーク(司令部対話?それとも幕僚会議とでも訳すのだろうか?)のためNYの国連本部から20名弱の国連職員(文民・軍人の両方)を率いてやってきたのだ。NATO側からは事務次長をトップに、様々な部門のスタッフが数多く出席。(NATOの組織は実に複雑で、恥ずかしながら組織図を見ながらでないと私もよくわからない。)1年に1度交代でNYまたはブルッセルで開催しているこの会議は私の部局の中のパートナーシップ・チームが準備をするが議題が様々な政策課題から、訓練やガイドラン作成、ロジの分野での協力、そしてアフガニスタンソマリアコソボといったオペレーションにもわたるのでそれぞれの担当者が数多く参加する。担当スタッフが参加しているのでオペレーションに関することは私がカバーする必要はないのではあるが、やはり国連側からの参加者のトップとして何かで聞かれたときにそれなりの応対ができなくては恥ずかしいから、かなりの資料を読み込んで勉強する。案の定、スタッフ・トークが始まる前に聞きに行った別の国連関連の会議(NATO加盟国の次席大使の会合)でアフガニスタンのことを聞かれ、せっかくだからと答えを求められて5分くらいしゃべることになった。資料に目を通していなかったら大変なことになっていたところだ。

NATO側との会合は大変うまくいったとおもう。詳しくは書けないけれども、NATOという組織は冷戦後の組織の存在意義・あり方を模索して改革の途上にあるので、国連の活動をしっかり理解して、どこで協力できるのかということを考えたいという姿勢をはっきりと打ち出している。なのでこういう会議ではきちんと国連の考え方を提示することが必要だ。特にアフガンに関しては、NATOと国連の目的そのものが必ずしも一致していないことをはっきりと伝えて、その理解のもとでどういう協力ができるのかを考える必要がある。NATOISAFは「War Fighting Mission(戦争のためのミッション)」だが、国連は平和、復興、人権の定着のためにNATOが撤退した後もおそらく長くアフガンにとどまって活動を続けるだろう。

面白かったのは、昼食会でホスト役のNATO側が、「新たな脅威」というテーマを設けて、テロ対策とサイバー攻撃についてのブリーフをしてくれたこと。特にサイバー攻撃は私にとっては全くと言ってよいほど初めてのテーマで、こちらから何もまともな反応ができなかったのは恥ずかしかったが(全く、自分の無知を思い知らされた)、大変興味深かった。

つい1週間ほど前にニューヨークタイムズ誌でもイランの核施設へのサイバー攻撃アメリカとイスラエルが仕掛け、効果があったという記事が出ていたのだが、この攻撃は何でも100億ドルから150億ドルをかけて1年ほどの間念入りに準備された攻撃で、非常に高度なものであったという。(どの国が仕掛けたのかは、もちろん教えてくれなかったが。)100−150億ドルというと大きな金額に聞こえるが、実際に核施設を武力攻撃することを考えればほんのわずかな金額だという。そしてうまく仕掛けられたサイバー攻撃は1国を完全にマヒさせることも十分可能だという。NATOの専門家に言わせると、だからこそ危険に満ちているという。それこそ近頃のハリウッド映画のように、一個人がハッカー集団を雇ってサイバー戦争を始める可能性もある。ただし、サイバー攻撃を仕掛ける可能性のある主たる脅威は誰なのか、と聞くと、即座に「国家だ」という返事。NATOは何でもこれまでも幾度もサイバー攻撃を仕掛けられたことがあるそうだが、この専門家によればそれらはすべて「ハッカー集団をうまく利用した国家からの攻撃だとみている」そうだ。

私のいるPKOの現場は言ってみればローテクの紛争現場。これまで考えたこともなかったサイバー攻撃の脅威だが、いかに世の中が激しく変革しているのかを思い知らされた昼食会であった。

BBCワールドニュースのエジプトのニュースにくぎ付けとなる。チュニジアから始まった変革の嵐も、ツイッターやインターネット、携帯電話を通してひろがった。この世の中の大嵐の中、またもや日本だけが取り残されていく感じがする。国債の格付けが落ちたのに首相は「こういうことには疎い」といったという。(これも海外で報道されていました。)どうしたらよいのか。

明日朝、NYに戻る。NYはまた大雪で、娘たちの学校も休校していたという。飛行機が遅れずに到着してくれるだろうか。