骨董市の奇跡

スタヴスネス村では年に何回か骨董市がたつ。農家の庭を借りたこの骨董市はいわゆるオークションで、一番高い値段をつけたものが競り落とす形式。この骨董市に行ってきた。がらくたも多くでているが、結構価値のありそうな大きな家具なんかもでている。何でもともかく安いので、プロの骨董屋の人間もよく来ているそうだ。

この骨董市で奇跡が起こった。夫の母アスタ(夏休みはいつも大体私たちの別荘ですごしている)が、ひとつの品の前で立ち止まり、びっくりした顔をして色々な角度から眺め回している。そして一言。「間違いないわ。これは私の母の裁縫箱よ!」

高さ50センチくらいの、コーヒーテーブルのような形をしたその裁縫箱は、ふたを開けるとその裏にアスタのお母さんの名前であるタイラ(Tyra)とこれを入手した年であるらしい1945年と書かれている。アスタは、この裁縫箱の中を兄弟たちと一緒にグリーンに塗り替えたことも覚えていると言う。「箱の中と、ふちのところと、2色少し違うグリーンに塗り分けたのよ。」

何でも、お母さんがなくなったときに2人のお兄さんとお姉さんと、アスタの4人で形見分けに遺品を分けたのだが、この裁縫箱は確か近所の人に上げたものだったという。おそらくその近所の人もなくなって、まわりまわってこの裁縫箱はスタヴスネス村の骨董市にやってきたのだ。当然のことながら、私たちはこの裁縫箱を競り落とした。金額にして350クローネ、約6000円。

タイラは夫のお祖母さん、娘たちのひいお祖母さん。私はもちろんあったことはないけれど、彼女がこのファミリーに帰ってきたような気がした。