駆け足の日本訪問

駆け足の日本訪問であった。中国政府からの招待で北京を訪問する途中で1日東京に立ち寄り、駆け足で防衛省・外務省を訪ね、午後は国連広報センターがアレンジしてくれた報道関係者の方々とのラウンド・テーブルに出席する。

東京での日程がちょうど菅改造内閣成立の日と重なってしまいアポがキャンセルになってしまうかとも思ったが、運良く外務省でも防衛省でも大臣任命の正式発表の直前の時間で、以前からお世話になっている佐々江外務次官へのご挨拶を始め、無事に予定の会合を終えることが出来た。

南スーダンのヘリの件はとても残念であったのだが、南スーダンが無事住民投票を終えた段階で国連のPKOミッションはまた名称とマンデートを変えて新しいものが設立されるであろうから、その段階で日本にも再度派遣を考慮してもらうことを国連職員として日本側にお願いする。日本人としては、日本が国際安全保障の場で応分の責任分担をすることが日本の将来にとって重要であると信じているので、これからもあきらめずに働きかけていくことをお伝えする。外務省の中には知人友人はもちろん多いが、防衛省自衛隊の中でも私と同じように国際社会の場で日本がもっと活躍するべきだと考える人たちともっと知り合って彼らと連携していかなくてはならないと思う。日本の外にいる日本人だからこそ祖国のために出来ることが私にはあると思っている。日本人の国連職員であればこそ出来る日本への批判や発言もある。以前から大先輩の緒方さんや明石さんに言われているように、日本でのキャリアを心配しなくて良い私であればこそはっきりと発言していくことは、私の祖国に対する責任でもあると自覚している。

日本のように国土が狭く資源もない貿易立国で人口も減少に転じている国で、しかも中国という超大国の隣に存在する国にとって、安全保障とはさまざまな方策を講じる包括的なものである。強固な日米同盟が日本の安全保障にとって最重要であることは変わらないが、それだけに頼って国の安全を保てる時代は過ぎ去った。何よりも総合的な外交力をつけ、国際社会のルールの枠組み作りに積極的にかかわり(できればこれを主導できるくらいが良い)、国際社会での責任を応分に分担し、どの国からも尊敬され日本と良好な関係を維持するのが彼らにとっての重要な国益であると納得されるだけのステイタス・立場を国際社会で維持することが日本の将来の生き残りにどうしても必要なことなのだ。日本が国際社会になくてはならない地位を持つ国になれば、イザというときに、影に日なたに日本の安全のために努力してくれる国も多いだろう。だから、PKOという国際社会の平和と安全の維持に積極関わることや、欧米と同じだけのODAレベルを早く達成・維持して彼らに引けをとらない立場を確保し、さらにそれによってアフリカやアジアの諸国とも緊密な関係を維持したりすることが、日本の安全保障にとっても欠かせないことなのだ。そして早急に安保理拡大を実現して、日本も世界の安全保障のルール作りに常時関われる体制を作る必要がある。

日本はいまや「遺産で食っている国」になってしまった。70年代以降の経済成長に伴い増額してきた開発支援や国連の分担金の増加によって、「安保理には入っていないけれど日本は金を出しているから、できるだけルール作りの議論にも参加させてやろう」ということになっていたのに、これらが減額に転じて、金の力ではもはや議論に参加できなくなる日もそう遠くはないだろう。国連の分担金や任意拠出金の日本の減額のペースはものすごい。そんな中で安保理常任理事国に日本がなれる可能性は、このままでいけばあと数年しかないと思う。そうなる前に、日本は金だけではないプレゼンスを国際社会で示さなくてはならない。ルール作りに関われなくなってしまったら、日本は永久に「下請けの国」になるのだ。他の国々が作ったルールで常に行動することを求められ、彼らが作った「国際共同事業」の実施のみを求められる。政治家にはそういうことこそ、考えるべきなのだ。事業仕分けなどというTV受けを狙った小手先の歳出削減など早くやめて、大きな無駄をなくしていくと同時に、20年30年先の日本の生き残りのために、ODAを増額しPKOなど国際社会の共同事業にもっと積極的に関わり、思い切った教育改革・科学技術開発などへの投資をするべきではないのか。

自衛隊の制服組の多くはスーダン派遣に抵抗したのだという。今回お目にかかった防衛省の方は皆がそうではない、制服組でもこのままの状況ではいけないという問題意識を持っている人も増えてきているとのことであった。本当にそうであってほしい。自衛隊は誰がなんと言おうと日本国の立派な軍隊だ。民主国家における軍とは、軍事の専門家集団であると同時に文民の主導する政府の政策実現のためのツールである。政府が日本の国益のために必要と判断し決定した場合、軍はどこへでも行かなくてはならない。それだけの覚悟をもって、自衛官は奉職するべきである。私はいくつかの職種は「就職」ではなくて「奉職」するものだと思っているが、自衛官はそういう職種のひとつであると思っている。同時に日本という国も、軍人を敬意を持って接遇するべきだし、海外派遣をする場合は自衛官の安全のために武器使用の原則も当然見直すべきだ。どの民主国家でも殉職した軍人には最大の栄誉をあたえる。国連でも定期的にPKO活動で殉職した各国の軍事・警察要員の栄誉を「ダグ・ハマショルド・メダル」をもってたたえセレモニーを催す。私も必ず紋付の正式な和服で参加して、彼らに謝意と敬意をあらわす。軍は悪ではないし、今日の日本が侵略のために軍を派遣するなどと思っている人は、どこにもいないだろう。自衛官の方々、誇りを持ってそして覚悟を持って、国際平和に関わってほしい。

今回は短い滞在であったので、お電話でのみ緒方・明石両先生にご挨拶する。お二人ともお元気で、相変わらず活躍してくださっている。叱咤激励され、私自身、気を引き締めて頑張らねばとあらためて思った。