尖閣ビデオとある外交官の反応

尖閣ビデオ流出に関してのわが夫の反応が興味深かった。夫はスウェーデン人外交官で、在京のスウェーデン大使館でも公使として2008年まで5年間勤務していたので日本の事情には明るい。今回のユーチューブのリンクもいち早く見つけ出し問題のビデオを閲覧して感想を述べる。曰く「映像が出てきて、本当に日本のためには良かったのではないか。これで日本の主張が正しかったことが証明されたわけだし、逮捕が妥当だったことも明らかになった。しかも政府が『公式に』公表せずに、つまり中国政府が抗議できないような形で出てきたわけで、日本にとってはベストな形で真実が明らかになったわけだ。このリークが実は秘密裏に政府によって仕組まれたものだったとすれば、日本もやるじゃない、と言えるのだろうが、まあそういうことではないのだろうね。」

断っておくが、夫はもちろん親日家ではあるが日本べったりというわけではないし、日本の右翼のような一部の対中国強硬派の主張は当然軽蔑している。その彼も、中国人船長釈放にいたる日本の一連の対応には理解し難いものがあったようだ。スピーディーに起訴・裁判にもって行き、有罪であれば執行猶予という形で釈放して国外追放になぜできなかったのだろうか、と考えている。最近は裁判の迅速化も進んできているので決して不可能なことではなかったはずだ。検察は外交的判断をする機関ではないはずだ。

超大国中国をむやみに刺激できない日本の事情は、安全保障環境のまったく異なる(つまり脅威の存在しない)ヨーロッパの小国スウェーデンには理解できないだろう、とおっしゃる方もいるだろう。しかし、スウェーデンは冷戦中つい1980年代の終わりころまで、幾度となくその領海をソ連の潜水艦に侵犯され大いなる脅威にさらされていた。NATOに加盟していない中立国であったスウェーデンは、ソ連のものと推定された領海侵犯の潜水艦に対して時に爆雷・機雷50発あまりをぶっ放す断固とした態度を内外に示していた。

爆雷をぶっ放せとはもちろん言わないが、私は真に中国との戦略的互恵関係と信頼関係を構築するためにこそ、時として毅然とした態度を示すことが必要だと思っている。そしてそれが可能になるためには、常日頃からイザというときに緊張を緩和する「クールダウン」のためのメカニズムを様々張り巡らしておくことが必要だ。夫に言わせれば、これこそが外交の役割である。そして司令塔たる政治家が、軍事、外交、民間の様々なチャンネルを戦略的に駆使して国民と国益を守る。妙な配慮はむしろ良くないのではないか。

それにしても、「日本政府が巧妙に仕組んだリークであればよかったが」という感想もそのとおり。国際関係とはまさにそういうものなのだから。